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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)3698号 判決 1973年1月31日

原告 甲野一郎

<ほか三名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 畑上雅彦

右訴訟復代理人弁護士 飯村佳夫

被告 小寺泰丸

右訴訟代理人弁護士 松田道夫

同 松田節子

被告 名塩健次

右訴訟代理人弁護士 篠田桂司

主文

1  原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  事故

請求原因一項の事実は、原告らと被告小寺との間においては争いがなく、また、原告らと被告名塩との間においては、≪証拠省略≫によりこれを認めることができる。

二  責任原因

(一)  一般不法行為責任

≪証拠省略≫によれば、請求原因第二項(一)の事実を認めることができ、被告小寺泰丸尋問の結果中右認定に反する部分はそのまま直ちに信を措き難い。

(二)  運行供用者責任

請求原因第二項(二)の事実は、原告らと被告名塩との間に争いがない。

三  原告らの固有の慰藉料請求権

≪証拠省略≫を総合すれば、つぎのとおりの事実を認めることができる。

訴外人は、訴外亡乙山ハナ(大正九年二月一八日死亡)の私生子女として明治一五年七月一二日に出生した訴外亡乙山ハナエの私生子男として明治三七年七月八日出生し、明治四四年四月五日訴外亡丙川一郎(明治七年八月二七日生、昭和一七年一〇月七日死亡)と養子縁組の届出をしていたものであるが、前記死亡に至るまで実子、養子を問わず子供に恵まれた形跡がなく、かつ、母を同じくする姉乙山オツエ(明治三五年一〇月五日生)もすでに昭和一六年一〇月九日に死亡していて、現在相続人の見当らないものである。

ところが、原告らは、訴外亡甲野太郎(昭和八年二月九日死亡)同ハル(昭和四一年六月五日死亡)間の子として出生したものであるが、母ハルは、父太郎が未だ生存し、同人との間に正式の婚姻関係が継続していた昭和四年ころ訴外人と内縁関係を結び、乳児であった原告一のみを連れ、その余の原告らの幼い子をのこして訴外人のもとに走り、訴外人と同棲するに至ったものの、前記のように昭和八年二月九日太郎が死亡し、原告らにおいて生活して行くことができなくなると、同月末ころ訴外人らともども原告らのもとに戻って来て、爾来住居の移転はあったものの、原告らおよびハル、訴外人らが同居して生活し、訴外人は、ハルとの関係上原告らを扶養して行った。

そして、原告一郎は、その後結婚し子女をもうけてからも、戦中妻子をのこして出征した数年間を除き、訴外人および母ハルらと同居共同生活を続け、母ハルが死亡してからも依然訴外人と同居を続けて共同生活を営み、訴外人の死亡に際してはその葬式を執行した。

原告月子は、前記のように訴外人らと同居をしたうえ、昭和一二年結婚して訴外人のもとを去ったが、間もなく夫が出征したので再び訴外人方に戻り、同所で長子を出産したうえ昭和二一年まで母ハルおよび訴外人らと同居生活を送っていた。

原告二郎は、前記のように訴外人らと同居したうえ、昭和一五年高等小学校を卒業して稼働し、昭和一九年から昭和二一年まで兵役に服したため、その間訴外人のもとを離れていたが、戦後復員して来てから昭和四二年まで独身であったことから訴外人らと同居して共同生活を送っていた。

原告一は、前記のように訴外人らと同居したうえ、結婚して独立するまで訴外人らと同居共同生活を続けていた。

以上の事実が認められる。そして、右認定の事実によれば、原告らは、外見上一応訴外人と親子関係があるような共同生活を営んで来ていたことが認められるが、他方本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告らは、訴外人との右のような共同生活にもかかわらず、訴外人と養子縁組をしたことも、またしようとしたこともなく、氏も自己の本来の氏である甲野を使用し続けていたことが認められる。

ところで、他人の生命が侵害された場合、これを原因として自己固有の慰藉料の請求をなし得る者が、右他人との間に民法第七一一条所定の身分関係のある者に限られるか否かについては、周知のとおり諸説の対立するところである。さて、他人の生命侵害は、あくまでも当該他人に対する不法行為に止まり、当該他人以外の者に対する不法行為ということは原則としてできないであろうから、生命を侵害された者以外の者につき他人の生命侵害を理由に慰藉料請求権が発生することも原則としてあり得ない筈である。そうすると、生命を侵害された他人との間に特別の身分関係のあることに着目して固有の慰藉料請求が認められたと解することのできる民法第七一一条所定の者以外の者は、他人の生命侵害を理由としては自己固有の慰藉料を請求することは許されないと解すべきである。もっとも、民法第七一一条により間接被害者ともいうべき者に対し固有の慰藉料請求が認められた以上、同条所定の者と同視し得る者に対し固有の慰藉料請求を容認して然るべき場合が全くないということはできないであろうが、すでに認定した原告らと訴外人との関係よりすれば、訴外人の死亡により原告らにおいて相当の精神的苦痛を味ったであろうことは否定できないにしても、原告らと訴外人との間の右認定の程度の関係をもっては、未だ民法第七一一条にいう親子の関係にあったものと同視することは極めて困難である。そして、このことは、訴外人に相続人がないことをもっても何らの影響を受けるものではない。

四  結論

そうとすれば、訴外人の死亡を理由とする原告らの本訴慰藉料請求は、結局理由がなく、ひいては、弁護士費用相当損害賠償金の支払を求める点も右慰藉料請求権が存することを前提とするものである以上理由のないことは当然であるから、原告らの本訴請求は、爾余の点について判断を加えるまでもなく失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小酒礼)

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